東五反田の風景

 例の件で五反田の家を見て来たのが昨日の話である。前日までマンションだというからどんな建物だろうもしかしたら広いかな広い家に一人暮らしとか優雅だな寝室とリビングで分離できて風呂トイレも別だったらどうしようとか勝手に夢を膨らませてしまったので、いざ現物を見ると普通の一人暮らし専用マンションで萎えた。こんなありがたい話に勝手に期待しすぎて勝手に萎えるだなんて大変失礼な話である。

  しかし気を取り直して冷静に分析してみると、

・築年数の古い

・線路のそばにあるので電車の音がうるさい

など細かい不満はありながらも

・駅近

・部屋の広さはほぼ同じ

・バルコニーがあるのでむしろ若干広いかもしれない

・家賃が爆安!!!!!!!!!

などメリットのほうが多い構図になったので、やはり当初の予定通り素直に話に乗っかるべきかな、とりあえずすぐさま引っ越すという話でもないし、今度姉が上京して来る予定があるのでヤツを引き連れてまた訪ねてみよう、カギはもらっちゃったしな、そう思ったのが昨日の話である。ところが今日になって更に冷静に考えてみると、建物はともかく五反田という街に住むのが本当に良いことなのだろうかという疑問に打ち当たった。

 

 

 

 高円寺に住んで今年でもう5年目になるが、たとえサブカルクソ野郎の街と言われようが中央沿線の独特な雰囲気を体現しているこの街は本当に好きだ。南北に何本も伸びる商店街も、大道芸やら阿波踊りで賑わうお祭り好きな気性の荒さも、部屋着で歩けるだらしなさも、毎夜駅前で誰かが演奏してる風景も、地べたに車座を組んで飲んだくれてるバンドマンたちもみんなまとめて大好きである。生活感が濃いと言うか人情があると言うか、毎日帰ってくるといつもほっとするし、家だーって実感を持てるその庶民的な雰囲気が心地よいのだ。きっとその感覚は年を経るごとにますます強くなって行くだろう。

 

 五反田はもともとオフィスビルと風俗しかないと聞いていたけれど、いざ降り立って歩き回るとなるほどこういうことかと納得した。街に生活感が無いのだ。確かに地価は高いし、大きなお屋敷も多いし、最近はタワーマンションも建っていて実際には人気がある街なのだろう。しかし住めば都とよく言うが、五反田という街で高円寺と同じだけの時間を過ごしても、心から好きだと言えるようになる自信は僕には無いと悟ってしまった。これは高円寺に初めて来た頃に感じたものと真逆である。

 

 

 

 まあそんなわけで色々思うことがあったので、即決といかず今は一旦保留としている。今まで高円寺が好きだって充分自覚していたが、離れるかもしれないという段階に至ってよく考えてみると想像以上に愛着を持っているのがわかったのがなんとも皮肉なである。引っ越しを考えるときは、建物よりも住む街自体の魅力をよーーーく考えて選ばなければ後悔するなと心に刻んだ出来事だった。