言の葉の庭

 気まぐれで観に行った言の葉の庭の感想など。

 ところでふと気づいたのだが、一人で映画を観に行ったのは今日が初めてだった(!)。いままで観に行きたい映画は何本もあったが、友人と観るのが好きな性格なので一人で観るのに1800円払うのが何となく勿体なかったのである。言の葉の庭は1000円で観られてハードルが低いし、だからふらりと来てしまったのだと思う。

 しかし人生初の一人映画が言の葉の庭で本当によかった。まずのっけのだれかのまなざしで泣いた。頭の語りが始まったシーンからもう意味わかんないうちに泣いてた。キャラクターの人生が明らかになってさらに泣いた。特に親父さんが弁当持ってるシーンはもう嗚咽こらえるので必死だった。これもう本編じゃん・・・って思う完成度だった。友人と観るのが好きと言ったが、このときばかりは近くに友人がいなくて本当によかった。引くほど泣いてたからである。

 

  さて本編の感想である。 

 

  とにかく今までの新海作品の中でも飛び抜けて映像が良かった。とりあえずなんかもう美しいとしか表現できない。テーマの「雨」は強弱表現から地面に落ちて跳ねる軌跡までものすごくリアルな質感で描かれていて、それはデジタルだからこそできた表現なのだろうけど、新海作品固有の色彩と相まってうっとりしてしまう美しさがあった。コレでかいスクリーンで観るとマジですごい。圧倒的だ。梅雨はこんなに美しくない。

 

 

 雨をきっかけに出会った二人の距離感が徐々に近づいていくような、でも遠い二人の距離感がもどかしいけどキュンときた。主人公は思春期特有の眩しさというか、悪く言えばすごい童貞らしさがあって好感が持てた。俺も秋月君の気持ちはよくわかる。そりゃ朝から儚げで綺麗なおねいさんが公園でビール飲んでたら気になって仕方ないだろうよ!好きになっても会いたい気持ちを自制してしまう感覚にも共感を覚えてしまった。靴職人を目指すという夢追い人なわけだが、惚れた女のために何かを作ろうとするというのがカッコいいなと思う。新海作品の主人公の中では一番好きかもしれない。

 

 作中一番印象に残ったシーンは、クライマックス、告白して秋月君が部屋を出て行ったあと、雪野さんが裸足で飛び出すところ。新海作品での男女関係は

・出会ったらそのまま離れ続ける

・追いかけるのは男(コスモナウトの花苗ちゃんは例外だけど)

・両方の気持ちに偏りが大きい

・結ばれない

みたいな印象があるんだけど、今回はちゃんとヒロインが追いかけに行ったのがグッときた。「よし!そうこなくちゃ!!!」って拳を握ってしまった場面である。やっぱり恋愛は追いつ追われつ、というのが一番良いですね。

 関係ないけど花澤さんの声は最近特にお気に入りで、千石撫子とかやってたころは「ケッ萌え豚御用達ケッ」とか思ってたのだけど、気がついたら花澤さん・・・ぼかぁもう・・・・!!!みたいになっていたので自分でも驚く。本当に気持ちが安らぐいい声だなと思う。

 

 EDは秦基博の曲。秒速では山崎まさよしが占めていたポジションである。世界観もそうだし、曲が流れるタイミングなど細かい部分も含めて、秒速を意識した演出だったのかな。エンドロール後、雪野さんからの手紙が映り、秋月君は靴を完成させて一回り成長し、いつか雪野さんに会いにいこうと決心しておしまい。

 

 本当に、秒速のような終わり方でなくて本当によかった。結局二人が恋仲になることはないだろうが、この二人はそれを超えた信頼関係みたいなものを築けたのではないか。いつも「結ばれない」のが常である新海作品において、これは最高のハッピーエンドなのではと思える。しかもこの時代に文通という形でお互いの関係が続くなんて最高に可愛い。このまま自然消滅していく可能性はあるけれど、きっと秋月君はすごく一途なので、時が経てば本当に会いに行くはずだし、そうであってほしい。涙は出なくて爽やかな気持ちだけが残った。

 

 

 作品自体はこの短さだからこそよかった。最近、花咲くいろは劇場版などを観て、1時間未満の劇場作品ていいなと思っていたのだ。長編だと必ずどこかで中だるみが出来てしまうが、短いと集中力がしっかり持続するから、むしろ観終わったあと余韻に浸れる体力が残っていて非常に良い。何より上映中トイレ行きたくなるリスクが減るからな!!!!!!!

 

  

  新海さんの作品は今のところ全部見てるんだけど、本作を観て架空世界のファンタジーよりも秒速5センチメートルみたく極現実的な世界で展開するアニメのほうが好きだとわかった。新海作品の特徴のひとつである「描写の細かさ」、例えば鉄道駅のホームや主人公が使うノートの紙質や鉛筆の削れ具合など、実際によく目にする風景や物の質感を徹底的に再現してくれる点がそれにあたるのだが、日常に即した世界でだからこそその特徴が活きるように思えて、観ている側としても入り込みやすいのだ。それは本作でいえば橋を渡る靴音、傘に当たる雨粒の音だとか、目立たないけどとても重要な環境音の選び方にも表れていると思う。だから僕は新海作品ではこの2本が一番好きだ。言の葉の庭、たぶんBD買うかもしれないという気がしているし、そうなればエヴァ破以来の快挙である!!!

 

 もう一度くらいは劇場へ足を運びたいと思いつつ、今日もiTunesStoreで予告編を観るのでした。